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「米海軍のナレッジマネジメント: クリンガー・コーエン法から現代の空母打撃部隊まで」

ナレッジマネジメントのプロジェクトに携わるにあたり、軍隊での手法が気になっていた。
軍隊では組織内での情報流通を重要視している。なぜならそれが出来ていないと文字通り「死」が訪れてしまうからである。

digiday.jp

今回はこちらを読んでみた。

米海軍省のIT政策

  • 本書は、二十世紀末に勃興したナレッジマネジメントの歴史をリードしてきた米海軍のナレッジマネジメントの実態について、その法的及び思想的背景から作戦及び業務上の適用実態までを包括的に語ることを意図している
  • 軍隊とナレッジマネジメント]との組み合わせは意外性があるように思えるが、戦場における知識の伝承は死活的に重要である。
  • 米国連邦政府が業務としてナレッジマネジメントを取り込んだのはクリンガー・コーエン法(1996年)の成立以降であるが、米海軍、特に太平洋艦隊司令部はナレッジマネジメントを積極的に取り入れてきた。
    • 1995年に公布された「ペーパーワーク削減法」は、各省に「情報源管理」を義務づけており、海軍省は「上級情報源管理局(Senior IRM Official)」を設置した。
    • さらに、翌1996年には 「クリンガー・コーエン法」が公布され、連邦政府各省にはCIO(Chief Information Officer)の選任が義務づけられた。
    • 1998年に選任された第三代CIOダン・ポーターは、初めて約四年間という長期間にわたり海軍省CIOとして勤務
    • ポーターは、海軍省CIO直下に「インフラ、標準化及び技術担当DCIO」、「電子ビジネス及びセキュリティ担当DCIO」及び「エンタープライズ統合担当DCIO」という三人の副(Dupty)CIOを配置した。
    • 初代エンタープライズ担当DCIOに任用されたのは、知識管理の専門家であるアレックス・ベネットであり、DCIO兼CKO(The Chief Knowledge Officer)と名乗っていた。
  • 1980年代末期から90年代の米国産業界には、企業構造改革を指向するビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)が流行
    • この手法は、短期的な利益を生む反面、人員整理を乱暴に行った場合、専門知が一緒に消滅するため、生産性が急速に悪化した。
      • 「(人員整理のため社員を)解雇したら(現場の知識も)消え去った(Fire and Forget)。」と揶揄される 「知識蒸発現象(コーポレート・アルツハイマー)」が生起したのである
  • ナレッジマネジメント・システム(ツール)の導入が業績アップに直結する訳ではないと気づき始めた民間企業は、2000年頃からナレッジマネジメントに対する「幻滅期」に入っている
    • その後、非IT(対面的手段)による知識移転の重要性や、野中郁次郎等の提唱した「場」の重要性が再認識され、2006年前後から再度の興勢を見る啓発期に入ったとされる。


野中先生の名著「知識創造企業」についてはこちら
tkybpp.hatenablog.com


米海軍のナレッジマネジメント思想

  • 米海軍のナレッジマネジメントに関するビジョン
    • 効果的かつ機敏な意志決定を可能とし、任務達成の効率を向上させ、任務効果を拡大するために、知識の創造、獲得、共有及び再利用を行うことである。

知識のタクソノミー

  • 第三代海軍省CIOポーター等は、バラバ・ヘッケル枠組から「知恵」及び「インテリジェンス」を除外し、最上位に「理解」を置いた「認知階梯(Cognitive Staircase)」を提唱
    • その階層構造は、「データ(data)」-処理→「情報(Information)」-評価→「知識(Knowledge)」-判断→「理解(Understanding)」である。
  • 2002年に豪州陸軍研究班が効果基盤型作戦(EBO)に対応する情報処理の段階を検討した際、各段階においてデータ管理、情報管理、知識管理、全体認識形成支援及び意志決定支援を適切に行うことにより、各段階の優越を担保できると結論した。

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意思決定サイクルとナレッジマネジメント

OODAループ
  • 軍隊の行動時の意志決定サイクルは、「観察」→「状況判断」→「意志決定」→「行動」→「観察」という周期を反復するというものである
    • 知識管理の「全体認識形成支援」及び「意志決定支援」により、OODAサイクルにおける「状況判断(O)」及び「意志決定(D)」が加速され、サイクル全体が短縮(圧縮)される。
  • 各部隊の意志決定レベルにおいては、OODAサイクルとナレッジマネジメントとの単純な関連性が明確化する。
    • 前述した OODAサイクルの観察(O)及び行動(A)の段階を支援するのはデータ管理(DM)及び情報管理(IM)による適切なデータ優越及び情報優越である。
    • 一方、状況判断(O)及び意志決定(D)の段階を支援するのはナレッジマネジメントによる知識優越である
    • 状況判断(O)を行うためには、行動方針を導出するため、観察(O)結果を自己のメンタルモデル及び既存の知識と照合し、全体認識の形成(sense making)を行う必要がある

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OODA LOOP(ウーダループ)

OODA LOOP(ウーダループ)

海軍省 知識管理戦略

海軍省より「知識管理戦略(Department of the Navy Knowledge Management Strategy) 」という文章も公表されている。

  • 知識管理が形式化された手順をもつ明確な訓練対象として求められたのは、海軍内では僅か過去十五年ほどのことである。
  • 多数の海軍の部隊は、知識管理のプロセス、手順及び計画を導入することで受益者となっている
  • 知識管理の大半の努力は、二つの相互に重複したカテゴリに区分けできる。部隊支援と部隊指揮官支援である。
    • 部隊支援は、職務をより良く果たすために、誰を知る必要があるかと、何を知る必要があるかを結びつける。それによって「再発見の輪」を止め 、海軍省の巨大な経験と知財のアドバンテージを獲得する。